私のバイト先は,自転車で10分くらいのところにある。最近早起きなので,午前中に治験テストの予定が入っていても鼻歌を歌いながら出掛けるくらいの余裕はある。曲目は『woh woh』。


いつもより早い時間に診察室に着く。「今日はお早いんですね?」とクラークさん。その後にかぁーのさん(仮名)到着,「帰るのに台風にひっかかっちゃってさぁーもぅタイヘンだったのー!」と夏休みの近況など聞いていると管理室のナベさん(仮名)到着。「じゃぁよろしくお願いします」と小一時間のテストが始まる。テストが始まるまで私はほとんど喋らないで。表現するなら「♪」という表情を浮かべて頷いているだけ。自分から会話を始める必要のない―私じゃない誰かが好きなだけ喋っている―環境は,疲れていないときは心地良く感じる。





テスト終了,いつもよりご家族が疲れていたけれど,おばぁちゃんの成績は上昇。多分よい傾向。娘さんは私の質問内容をあまり把握してないご様子。ハッシャー先生が言ってた「介護活動中はストレスによって家族の記憶成績も落ちる」という見解を実感,でも「介護活動しなくなると記憶も復活する」というポジティブな結果も見てみたいなぁていうかどのご家族も皆さんがそうなって欲しいなぁ,などと思いながら記録。

「あー今日はこれで終了でしたっけ?」とナベさん(仮名)のいる管理室。ハンコを押して来週以降の予定確認。9月はちょっとたて込んでいる,大丈夫なのかなぁ…という表情をすると「んーズラしたりすれば大丈夫ですよね?」とのこと。最近とみに丸くなってきたお顔に満面の笑みでそう言われるとちょっと否定しずらい,という“笑顔の効用”をちゃんと分かっている人なんだ,と(最近とみに云々…のところは本人には絶対言えないけれど)。



10年ぶりの冷夏は全然悪くない。この街はもともとは湿地帯だったようで年中湿気が高い。のでちょっとでも空気が冷たくなるとその“ひんやり加減”を体感しやすい。照りつけない太陽のもとで自転車にまたがると手元にあたる風が涼し過ぎて,ペダルを漕ぐスピードがのほほぉんとしてしまう。



図書館について文献のコピー。公費で費用が落ちるカードでコピー出来るなんて以前の学校では考えられなかったなぁ研究費って大切,とか思いつつ隣りで100円玉を何枚も投下して論文を複写している学生を,なんとなく懐かしむように見る。昨日確認したときはまだ貸出中になってなかった本が無くなっていて,確認したら“9月10日返却予定”の表示でしょんぼり。ま,いいか。



控室ではぱるひこさん(仮名),ゆーこちゃん(仮名)が2人で黙々と何かを読んでいる。かたや学会の抄録かたや手塚治虫の漫画。「お土産買ってきたから食べて下さい」と鰻プリッツを指差すので試食。わーウナギくっさーぃと言いながらゆーこちゃん(仮名)の方を見ると,何か間違ったもの口に入れて如何ともし難い,という顔をしながら残り半分のプリッツをこちらに差し向ける。ノンバーバル・コミュニケーションによるエンコーディング機能というのは制御性が低い,などと学際的なこと思いついた。学部生の頃に買って読まなかった専門書あたりに書いてあるかもしれないな,うん。あとそのプリッツ私ももういらない。

廊下でオリバーさん(仮名)にウィルスのことを質問。あーやっぱりWIN98には関係ないのねと。“セキュリティホール”という単語が出てくる前に“サウンドホール”という単語がアタマの中の検索に引っ掛って,ちょっとアウアぅしたことをここで告白。用事が済んだので帰ろうとするとりゅーたん(仮名)が引き止める。相変わらず留守番するネコのような人だなーと思いながらバイバイ。


2時過ぎ,お昼がまだだったのでカレーでも食べよっかなぁと学食の方に足を向けると携帯に連絡。「すいません,今日私の勘違いでさωさんもう一人検査入ってました!申し訳ないんですけれどもう一度来て頂くこと出来ますか?スィマセェン…」とのこと。





多分文句も言わないでそのまま診察室に戻れたのは,この肌寒い陽気のせいで。道すがらの鼻歌は『8月のセレナーデ』。