先日『地球漫歩計』という番組にて,平成14年度から実施されている『総合的な学習の時間』の特集をしていた。やー面白かったなぁ。



一番興味をそそられたのは,どこぞの一般企業か経営コンサル会社が企画してた経済体験ゲーム。

いくつかのグループごとにお金儲けをする,というもの。お金儲けの方法は簡単で,紙を特定の形に切って,切り取った紙を銀行で換金しながらお金を貯めていく。紙の形は丸や三角など色々あって,作成の難易度によって換金レートが違うので,簡単な図形を沢山作るもよし,難しい形を作って高額ゲットもよし。換金は世界銀行がやってくれて,そこに定期預金すると金利がついたりする。

それぞれのグループはひとつの国家になるのだけれど,国家はあらかじめ与えられた資源・財源・技術力・情報力を持っている。資源は図形作成に使える紙の量,財源は最初から持っているお金,技術力は紙を切るときに使う定規やコンパス,はさみなどで,情報力は価格の変動とか銀行の破綻などの予告を早めに知ることが出来る能力,となっている。で,各国家はその初期能力が異なっている。たとえばライオン国は財源は潤沢だけれど他の能力はそれほど高くなかったり,ラビット国は資源・財源とほとんどないのに技術力だけは高いので,分度器もコンパスも持っている。


ゲームがスタートすると,まずそれぞれの国が持っていないものを国家同士で交渉して交換する。換金レートは決まっていないので,国同士の駆け引きがあるが,紙きり作業をしていい時間は限られているので,どこかで妥協して作業に移らないといけないから,この辺はズムーズ。

紙切りは作業が進むとグループごとに工程が簡素化したりする(例えば四角を作るのに一々線を引かないで,大きな紙を折り曲げて一気に切り取ったりする)。でもうまく出来ていて,世界銀行が換金するときに,長さや形の正確さが基準を超えていないと“粗悪品”のレッテルが貼られ,何割引かで買い取られてしまう。また,それぞれの形はすべて世界銀行に集まるのだけれど,集まった供給量に偏りが出ると換金レートも変動する。ので,丸ばっかり集まると安く買い叩かれて,作成が簡単な四角形でも妙に高くなったりする。
当然牛耳っている世界銀行も経営不振に陥ったりもして,そうなると換金レートだけでなく,預金の金利が下がったり,ひどいときは貯蓄の一部を補填にあてる,といったイベントがある。情報力がある国はそういう危機を匂わせる(あくまで“匂わせる”ので,どこが危ないかは自分たちが判断する)情報が与えられるのである。


面白そうじゃないですか?



経済だけでなく政治の縮図までも自分たちで体験できるというギミックは,ありていの教育者には出てこない発想だなぁと感心しきりでした。「教育はサービス業だ」ととある先生が仰ってましたが,こういう現場に一般企業が絡んでいる実状を見ると頷いてしまう。楽しくなくちゃモチベーションも上がるめぇし,モチベーション上がらなければ学ぶことも少なかろう,という単純な発想が,専門家である教育者になかったりしてね。



後はいくつか考えたこと・雑感をとりとめもなく。


こんな楽しいゲームみたいな授業をしました,さて子どもたちにどんなフィードバックをしたのでしょう?というのが素朴な疑問。今回放送されたゲームの結果では,最初に資源や財源はなかったけれど情報力を持っていたチームが一番になっていた。情報力がひとつの力になる,というのを反映した面白い結果だったのだけれど,こういうゲームの結果に教師としてどんなコメントするのかね?と思った。やってみた・面白かった…のその次に来るもの,をうまく提示できるか?というところが教師の裁量になってくる。「それぞれの子どもたちが自由に感じてくれればいいんですよ,だからコメントとか,他の情報は与えません」というのもひとつの意見でしょうね。でも指導要領を見ると今回の取り組みは『創意工夫を生かした教育活動』というよりは『横断的・総合的な学習』の扱いをするべき―国際情勢とか政治・経済なんて一朝一夕には理解できっこない―だと思う。だとすれば,自分たちの行なったゲームでの活動,たとえば現代社会のもつ情報の価値とかそれにまつわる利益・損失や犯罪の例(インサイダー取引のハナシ,とかね)を“活きた知識”にして子どもに与えることも可能かな,と。

まぁ簡単に言ってしまえば,ガキンチョは基本的にアホだから,楽しい授業はその“楽しさ”だけしか憶えちゃいねぇ。とすればその後に“授業”に仕立て直すのが教師の仕事,ということ。総合的な学習の時間のデメリットが基礎学力の低下にあるとすれば,どこかで基礎学力にも繋がるような扱いをするべきだよなー,と。



もうひとつは,前にどっかの論述で読んだ内容をふと思い出したこと。現場の教師はただ授業するだけでなく他にも色々雑務がある。教師でなくても出来ることは地域や民間にどんどん委託すりゃいいじゃない?という論旨の文で,それ今回のことがそのまま当てはまるなぁ,と思った。子どもの教育はどんなに税金かけても怒られないから,民間委託できるものはお金でその技術力を買ってしまえばいいのでは?と考えたり。要るか要らないか分からない高速道路にウン十億かける余裕があるのなら,こういう別業種に国の支出が回るシステムもどんどん構築するべき…と論旨が教育とかけ離れてきた。まぁ外部の人と提携して授業をする,というのは,教師が一人で授業計画するより遥かに労が多い気もするけれど,外部の人が参入するのも閉鎖的な教育現場にならなくて良いんじゃないかなー,と。





ちょっと思いついたので,まとまりませんが。

  • 追記:ちなみにこの番組,平日の午前中にやってて,それをオンタイムでフツーに観ている私。講釈垂れてないでお前が直接社会貢献しろよ!という指摘はナシでひとつ。このニッキの半分は閲覧者の優しさで成り立っています。えへ。